約束不履行



 車 弁慶は人が良い事に定評がある。
そのせいで損をしていると言われる事も多いが、他者に対して親切にする事が損だとは弁慶は思わない。
巡り巡って自分の所に帰ってくるかもしれない。以前「情けは人の為ならず」と言うじゃないか、と言ったら
竜馬が「それって“親切にすると、その人の為にならない”って事じゃ無ぇの?」と尋ね、
隼人が「“他人に情けを掛ける事は結果として自分の為にもなる”という意味だ」と誤用を正すというお約束をかましてくれた。
弁慶と、竜馬、隼人、武蔵――それからミチル。気の置けない仲間たちとの、日々の他愛ない軽口、
そんなささいな日常が、今は遠くに感じられる――弁慶は気持ちを切り替えるように、フッと息を短く吐いた。
差し当たって今、考えなければいけないのは……おいしいお茶の淹れ方、である。それも、弁慶の人の良さが招いた状況だった。
 事の起こりは早乙女研究所の入口付近で、一人の若い女性が警備員と揉めてるらしい所を見かけた事だ。
どうやらその女性は研究所に入りたがっているが、止められてるようだ。
現在は月面のインベーダーを一掃し、人類は平和を享受しているとはいえ、早乙女研究所はゲッターロボを擁する人類の防衛の要とも言える
重要な場所である。いわゆる機密がごろごろしてるので、そうそう普通の人は立ち入れない。
その辺りの事情を警備員が説明しているようだが、女性は中々引き下がらない。その真剣な横顔を見ていたら、手を貸したくなってしまった。
「まあまあ、こんな山の中まで来てくれたんだ。応接室までならいいじゃないか」
そうしてこの人の良い男は、応接室へと女性を招き入れ――お茶を淹れ方について考える羽目になった。
 弁慶は食べる事も飲む事も大好きだが、質と量のどちらを取るかと言えば断然量の方だ。
一服する時も、自分の好きなように、こだわり無く番茶を淹れる。しかし客人に対してそういう訳にもいかないだろう。
実際、応接室そばの給湯室には綺麗な絵付けが施された茶器一式と、茶筒に入れられた高級そうな煎茶が棚の中にきちんと収まっている。
その茶筒を手に取ってしばし考え込む。時折タイミングが合えばミチルがちゃんとした緑茶を淹れてくれた。
いつも飲んでいる番茶より、香りが高くて、渋みと共に甘さが感じられるまろやかで芳醇な味。そして確か…温度が低かった。
こと飲食物に関して、弁慶の感覚は確かである。しかしその再現の方法が分からない。
給湯室でもたついているのを察したのか、応接室の方から声がかかる。
「あの――おかまいなく」
「あ、大丈夫です。すぐ行きます!」
仕方ない、と急須に適量茶葉を放り込み、沸騰した熱いお湯を注ぎこんだ。
(ミチルさんに、聞いておけば良かったな……お茶の淹れ方)
しかしそれは永遠に叶わない。新型ゲッターロボの開発に伴う合体実験が行われ、そして――
弁慶は強く目を閉じた。脳裏に浮かぶライガー号とドラゴン号に挟まれたポセイドン号の無惨な姿。
そして彼の、彼らにとっての大切な人が失われた……その事実を、未だに受け止めきれない人は研究所内に多くいる。
その筆頭たる人物に、彼女は会いに来たのだった。

「神 隼人さんはいらっしゃいますか?」
ガチャリ。湯のみを机に置いた途端に、こう尋ねられ弁慶は二つの意味で
(しまった)
と思った。
没個性的な白いシャツにシンプルなジャケットと共布のタイトスカート。どこかの制服か、と思った第一印象に間違いは無く、
彼女は何やら小洒落た名の(聞いた弁慶はフランス語のようだと思った)店の店員らしい。
オーダーをされた品物を届けに来たという。それならば自分が預かる、と弁慶は言ったが、彼女は不満そうだ。
「でもこれは――高価な品ですから。ご本人さまでないと」
先程、警備員と揉めていたのも同じ理由だろう。しかし今の隼人は、人を寄せ付けない雰囲気を全身に漲らせている。
友人である弁慶でさえも会いたがらず、ひたすら研究に没頭している。いや、弁慶に会いたがらないのは
寝ているのか、とか食っているのか、とか心配されて構われるのが予想出来るから避けているのかもしれない。
(この女性は隼人に会いに来たのか…)
それともう一つ、しまった。と思ったのは。
(茶托を持って来るのを忘れた)
と湯のみを机に置いた時に気付いたからだ。それに…湯のみに描かれた花が自分の方を向いているのは、変なような気がする。
(客人側に向けるのが正解か?あっ、蓋にも絵があるから…これ、揃えなくちゃいけないのか)
どうも、自分には繊細さというのは無縁だ。無知なら無知、と恥をさらしてしまおう。
「あ、茶托を忘れていました。持って来ますね」
話の方向を変えられて、背後で女性の戸惑った気配が伝わって来たが、構わず弁慶は給湯室に逆戻りした。
 茶托を盆に乗せながら、彼女は何を届けに来たのだろう、と思った。
隼人がオーダーした…高価な物。
(スーツかな)
弁慶は着るものにこだわりは無く、サイズが合えば作業着だって気にしないが、隼人は日本人離れした長身を持ち、
細身だが全身には鍛え上げられた筋肉を纏っているから、既製品ではあまりサイズが無いようだ。
きちんと採寸して、彼の為に作られたスーツ。そのくせ、スーツの上の方のボタンだけを留めるという正しい着方を隼人はしない。
常に前を開けたままでいて、中に吊った銃を取り出す時の妨げにならぬようにしておく。
万事そつの無い彼の事だったから、早乙女博士の代わりに会議や打ち合わせ等、堅苦しい場にも度々顔を出していたけれど、
きちんとしたスーツを着ていても尚、隼人は本質的には戦士で、厳しい表情を緩める事は無かったが、それでも。
(ミチルさんといる時は全然違った)
そこにいるだけで、周りを和ませる、花のような人。その笑顔と日だまりのようなぬくもりは、冷徹と言われた男を温めた。
しかし今、その心に灯った光を失って、隼人は闇に沈んでいる。事情を知らない人が会うのは、避けた方が良かった。

 今度はきちんと柄が客人の方を向くように茶托と湯のみを置きながら、弁慶は店員の女性をどう説得しようかと逡巡した。
本当の事は言えないが、なるべく嘘はつかないように。
「隼人は今――研究で忙しくて。研究所の地下に籠って、全然出てこないんです。だから、ね。
俺が預かっておいて、機会を見てちゃんと渡しますから」
「だったら私が品物を届けに地下まで行きます」
「それは駄目です。研究所の機密がありますから、一般の人は入れられません」
これは本当だった。毅然とした態度で言い切ると、説得力を感じたのか女性はしばし黙り込む。
「――なら、神さんを呼び出していただけませんか?」
それは、当然の提案だが、しかし。
「ええ、まあ…でもあいつ、没頭してる時は通信機の呼び出し音を切ってしまうので、どうかな。一応やってみましょうか」
手元の腕時計型通信機を操作して、隼人を呼び出し、しばし待つ。
が、無言の時間が応接室を支配するだけに留まった。
「――やっぱり駄目か。後はどうしても聞こえるように大声でも出すしか…あ」
そんな原始的な方法をしなくても、良い物がある。
「館内放送で呼び出しましょうか。何度も言えばうるさく思って来るかも」
すると意外にも、呼び出して欲しいと言った女性が難色を示した。
「え、それはちょっと…あの」
そして、発した言葉は唐突に核心を突く。
「ここにミチルさんというお嬢さんはいらっしゃいますか?」
「――っ!?」
 息が詰まって、呼吸が出来なかった。
(なぜ、それを?……いや、平静を装って答えるべきなんだろうか?留守と言うとか…)
 研究所に、早乙女ミチルがいるのかどうか。それは否、でもあるし応、でもある。
彼女は、もうこの世界のどこにもいない。あの微笑みも、ぬくもりも永遠に失われてしまった。――が、
遺体は、まだここにある。
ミチルの父の早乙女博士が、何を思ったか未だ葬式も出さずに、如何なる方法を用いてか遺体を保存している……らしい。
らしい、というのは弁慶はその遺体に対面していないからだ。
弁慶どころか、早乙女博士は誰にも――いや、武蔵によれば元気には見せたのではないかと言っていたが――遺体には逢わせず、
事故の原因は彼らの所為だ、と竜馬と隼人を罵倒し、人の意見に耳を貸さない偏屈な老人になってしまった。
愛娘を亡くしたショックが大きいのは分かる。しかし大切な人を失ったのは、皆も同じである。
 知らず、拳を強く握りしめた弁慶の様子に気付かず、眼前の女性は言葉を続ける。
「あの、もしミチルさんがいらっしゃるなら…呼び出しは…困ります」
「はあ?」
「神さんはこれを届けに来た事を内緒にしたい…はずです」
「隼人が、オーダーしたんですよね?」
「はい。サイズ直しとお名前入れを承って…先日出来上がったので、お届けに上がりました」
どきり、と鼓動が高鳴る。
(ミチルさんへのプレゼント…なのか?)
サプライズで秘密にしていたプレゼントが、今届く。隼人の手元にミチルの為の品が。
今となっては、何の意味も無いばかりか、受け取るべき人がいない事を思い知らせるだけなのでは、あるまいか。
(やっぱり、俺が受け取っておいた方が…でも、高価だって言ったっけ)
思い巡らすうちに、ふと、ひっかかりを覚えた。

(この、プレゼントは……何だ?)

 ミチルの誕生日はまだずっと先だからバースデープレゼントでは無い。
わざわざオーダーしたのだから、何か記念とか区切りを意識した特別な物なのだろう。
事故があって研究所の雰囲気はすっかり変わってしまったが、もし、あの忌まわしい出来事が無かったなら。
月面でインベーダーを倒し、地上の早乙女研究所で新たなゲッターロボの開発を成功させて、皆が希望に満ちた
輝かしい未来へと思いをはせる。そういう幸せの中で、隼人がミチルに贈りたかった物、だ。 
女性へのプレゼントといえば…花や小物、アクセサリーとか。しかしサイズ直しが必要というのは…服なんだろうか。でも。
 弁慶は店員の女性の脇に置かれた紙袋に視線を送る。
紙袋の大きさは、ごく小さい。せいぜいA5くらいの大きさしかない。厚みは大分あるようだが。
あれに入るのは服では無いと思う。そして、名前を入れる物。
(ハンカチ…)
いやいや。弁慶は一人首を振る。今時そんなプレゼントは無いだろう。
隼人とミチルの交際は、真剣で親密で。そんな付き合い始めたばかりの学生みたいなプレゼントでは、多分、無い。
それに高価だというのに当てはまらない。ならばアクセサリーの類か。貴金属なら高価だろうし…。
それでいてサイズがあって、名前を入れるような物。
不慮の夭折が無ければ、隼人がミチルに贈っていてしかるべきと思えるような、「何か」
 膝の上で組み合わせていた弁慶の両手の指が、ぐっと左右互いの甲を掴んでいた。痛いほど。
これらの条件を満たす「何か」、たった一つ思い当たる物はあるが、まさか、だとしたら。
(今の隼人に渡したら…傷つくだけなんじゃ)
「…あのー」
「はいっ」
思考に沈む弁慶の様子に、女性がためらいがちに声をかける。我に返って、返答が思わず大きな声になってしまった。
「困らせてしまったようですね。我がままを言って、すみません」
「いえっ、そんな」
困っているのは、女性の要求のせいでは無い。断じて無い。
「見たところ、とても親身になって考えて下さってるし…。貴方は、信用出来る方だと思います。
こちらの品物は貴方にお預けします。神さんのお手空きの時に渡して下さい。」
良い人だ、と信用されてしまった。そして何事かを押しつけられ、自分は断る事が出来ない。
(その繰り返しが、人が良いっていう定評なんだろうな…)
この持ち前の性格は変えようが無い。内心ため息をつきつつ、弁慶は受け取り伝票にサインをして、女性から紙袋を受け取った。
上から覗き込むと、一辺が10cmほどの立方体の箱。今見えてるのは外箱なのだろう。
可愛らしいリボン飾りがシールで付けられた、いかにも女の子が喜びそうなプレゼント。
やはり小さく、あまり重量は無い。
(――でもきっと…重い)
この品に籠められた想いは。だからこそ、第三者が勝手に出来る物では無い。
頭を下げながら研究所を出ていく女性に、安心させるべく笑顔を向けながら、柔和な表情とは裏腹に、覚悟はもう決めていた。
隠者のように地下に籠り、心を閉ざした友人に会わなくてはならない。

 早乙女研究所の広い地下を隈なく探し回り、ようやく見つけた隼人は、パソコンの画面だけが灯った暗い部屋で
ひたすらキーボードに向かっているという、不健康極まりない状態だったので、
弁慶は自動販売機の連なる小さな休憩スペースに隼人を半ば引きずって連れだした。
「…何の用だ」
眉間に皺を寄せて、わずらわしげに尋ねる隼人に
「今日、これを届けに来た人に、隼人に渡して欲しいって、頼まれた」
託された紙袋を渡す。
「…ああ」
もともと、注文したのは隼人だから、紙袋に記された店名で察したのか。隼人は、その中身を知っているようだった。
にも関わらず、ひどく無関心そうに眺めるだけ。そして、踵を返したかと思うと
――ボフッ
紙袋ごとごみ箱に突っ込んだ。
「なっ!?」
慌てて紙袋を拾い上げる。力が加わって紙袋は歪んでしまったが、中の箱は綺麗だった。
その箱を先を歩く隼人の手に押しつけるが、全く受け取ってもらえない。
「ちょっ…大事な物なんだろう?」
「もう必要無い。無意味なんだ」
硬く、冷たい声から拒絶の意志がありありと感じ取れたが、こんな事で怯んでなんかいられない。
「高価な品だって言ってたし…」
「…ああ。六桁はいくからな。どうせいらないから、お前、売り払ったらどうだ?それなりの金額には、なるかもな」
「何言ってるんだ、俺の物じゃ無いだろう!?」
「必要無いから捨てたんだ。それとも何か。ちゃんと分別しないのが気にいらないのか?」
「そんな事言って無いっ」
カツカツと大股で繰り出される歩みを、追いかけながら必死に言葉を紡ぐ。そうしないと置いていかれそうだった。
実際の身体だけでは無く、距離が生まれそうだった。
すると隼人が急に停まったので、弁慶は彼を追い抜きそうになる。
「――いっそ、火葬でもしてくれれば…。一緒に入れてあげられたのに。炭素結晶だから、良く燃えただろうよ」
低く、呟いた言葉は独り言だ。
(やっぱり、この箱の中身は…)
思わず、手に力が入ってしまって、弁慶の握力に耐えかねた外箱が歪みかける。
その感触に弁慶はあせって、隼人の手を取ると掌の中に無理やり箱を押し込んだ。
「これは、お前の大事な物だ。無意味なんかじゃない、決して」
「――大事だったのは、こんな、形じゃない!」
隼人が大きく手を翻せば、小さな箱は簡単に放物線を描いて飛んだ。
廊下の反対側の壁に当たって外箱は完全に歪んでしまって、その中のビロード貼りの箱が転がり出る。
蝶番が開き、箱の下に零れ落ちた――何人もの人が、幾重にも包んでいた箱が、守ろうとする価値のある、
その品物を弁慶の武骨な手が拾い上げた。
(うわ、細い…)
とてもでは無いが、弁慶の指は入りそうにない。それよりは細いが、隼人の節くれだった指だって入らないだろう。
(これを届けに来た店員さんなら入ったかも…いや)
物理的に入るかどうかは、何の意味も持たない。これは隼人が贈った、ミチルの為の物だ。その証に内側に名前が刻まれている
――HAYATO to MICHIRU――他の誰でも無い、たった一人の為の。
傾ければ、廊下の照明を受けて輝く、美しく澄んだ石。地球上の、あらゆる天然鉱物の中で最高の硬度を持ち、
それゆえに、固い絆で結ばれた永遠の愛の象徴。
ダイヤモンドがその至上の輝きを放つ。
 気付いていたけれど、当たって欲しく無かった物。とても大切なのに、見たくも無い物。
弁慶が手をそっと握ると、小さな輪は簡単に隠れてしまった。
繊細なデザインで、ダイヤモンドを美しく抱いたプラチナの指輪――エンゲージリング。
(隼人が、ミチルさんにプロポーズしようと思って内緒で用意していた。……でも、ミチルさんが亡くなってしまったから…)
もしも、ミチルが生きていたら。彼女はとても嬉しそうに微笑んで、これを受けとって。
ミチルの細い指に嵌まった指輪はきらきらと輝いて、二人の幸せに華やぎを添えただろう。
今となっては、唯の空想にすぎず、永遠の愛の証の筈だった物は、幸せな仮定を想起させるだけの形骸と化した。
こんなにも美しい無用の長物を他には知らない。
 我知らず、廊下に膝をつき項垂れる弁慶を、隼人は沈痛な面持ちで眺めていた。が、手を差し伸べる事はしない。
水に溺れる人のように、手を伸ばした人間をも引きこみ、暗い淵に沈みこんでいきそうで。
ましてや胸に抱えた痛みは、隼人の方が深いのだから。
弁慶の上から感情を押し殺した声が降ってくる。
「見たくないんだよ。――今は」
そうして足音が静かに離れて行った。
 顔を上げた弁慶は、ゆっくりとビロード貼りの箱を拾い上げて、華奢な指輪を丁寧に箱に収めた。
今は哀しみを誘うだけの物だとしても、指輪自体は何も悪く無いのだから。
エンゲージリング――約束の輪。誓ったのは永遠の愛。しかし今は、果たされなかった約束の証であるかのようだった。
約束不履行――Engagement Breach

(今は、見たくない。……なら)
いつか渡そう。時を経て、胸の痛みが少しでも和らいだ時、この指輪を拒絶する事が無くなったら。
それまで自分が預かっていよう。そして隼人に渡す事を、あの女性に頼まれたのだから。
「やり遂げなくっちゃ、車 弁慶の名がすたるってモンだ、なあ?」
自分を奮い起たせて立ち上がる。口元に笑みを作って上を見る。目尻から涙が零れ落ちようとも。

             †     †     †

「――まさか、十六年もかかるとは思わなかったよ」
タワーの中の食堂で、隼人と真向かいに座った間のテーブルに、ビロード貼りの小箱を置くと、隼人は傷の走った目元を瞬かせた。
長い時を経ても記憶の褪せない男は、それが何かなんて尋ねない。
「まだ持っていたのか。執念深い奴だな」
「三年の間は渡す機会を窺ってたんだけどな。その後、俺自身も顔合わせないまま
十三年も離れ離れになっちまうとは予想外だったな」
もう四十代だぜ俺たち、と大口を開けて笑えば、隼人の唇も弧を描いた。
(ああ、指輪を前にして、笑えるようになったんだな)
それを確認した弁慶は、箱を開いて中のエンゲージリングを見せると、隼人の方についっと押しやった。
「隼人――受け取ってくれ」
すると、隼人は呆れたような表情で、盛大にため息をついたので、弁慶は呆気にとられた。
「どうしたんだ?」
「弁慶、いい年したおっさん同士で、真剣な顔してエンゲージリングを渡してるのは――気持ちが悪い」
食堂にいる人々が、尊敬する司令とその旧友を、遠巻きにして眺めていた。
それからしばらくタワーの有能な司令は、まことしやかに流れる噂話に悩まされる事となった。









話自体は、するっと頭の中に思い浮かんで苦労が無かったのですが、どうやって形にしようかと…。
最初まんがにしようかと思ってて、あっさりボツです(笑)。序盤は弁慶とオリキャラの女の人しか出てこないし。
小説は小説で、会話の相手の一方が、名前も出てこないって…。と思ってたけど、何とかなるものです。
弁慶視点は、人への配慮にあふれていて、思考も適度にゆっくりで(隼人だと頭良いから、一足飛びに結論)、
ホントに書きやすい。
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